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東京高等裁判所 昭和24年(新を)1200号 判決

被告人

岸本三次郞

主文

本件控訴はこれを棄却する

理由

刑法第二百四十四條第一項は、同條所定の親族、又は、家族の間に行はれた窃盜の罪、又は、其の未遂罪に付いての処罰に関する特例の規定であつて、同條所定の親族間に於ても窃盜罪又は其の未遂罪は構成するけれども、刑を免除すると言ふのであつて同罪の成立を認めないと言ふ趣旨ではない。されば苟くも原判示の飯吉豊次が兄彦一の籾五斗位を窃取した以上は該窃取の行爲は窃盜罪を構成することは、勿論であつて單に前記法條の適用上これが刑罰を免除するに過ぎない。

從つて右窃取した籾五斗位が犯罪行爲に因り收得した贓物であることは、勿論であつて、原判決が、其の情を知つて、これを運搬した判示第四の事実を贓物運搬罪を以つて問擬したのは、洵に相当であつて原判決には毫も所論の如き違法あることなく、所論は独自の見解たるに過ぎない。

「第一点 右被告人が昭和二十三年十二月中旬頃飯吉豊次の窃取した籾五斗位(見積價額七百五十円位)を運搬したと言ふ起訴事実に対し、原審裁判所は、賍物運搬罪を構成する旨判示した、しかし飯田豊次の窃取した籾は其の実兄彦一の所有物である事及飯吉豊次は、兄彦一の同居の家族である事は証拠に依り明かである。然る時は親族相盜の規定により窃盜罪を構成しないものと思料する。刑法第二百四十四條には「其刑を免除する」とあるから、有罪であるけれども其刑を免除するものであると一應は解釈出來る。しかし、之はあまり文字にとらはれだ皮層の解釈で其立法趣旨は私有財産制度の下に於ては近親者間の財産問題に付ては之を公訴の対照物とせず近親者の情義に依り自律的に解決せしめようとするものであると思料する。

又、本條規定の文理上からみても直系血族、配偶者及同居の親族家族以外の関係薄い親族に対してすら「告訴を待て其罪を論ず」として居る以上関係厚い親族家族間に在つて之を國家刑罰権の外に置き公訴の問題としないことが刑法の趣旨であると解釈出來る。

然るときは本件の場合に於て飯吉豊次の行爲は犯罪を構成しないから同人の委嘱により被告人が籾を運搬しても賍物性の無い物を運搬したのであるから賍物運搬罪を構成しないのである。然るに原審判決は之を有罪と認定してゐるから法の解釈を誤つてゐるものと思料する。」

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